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RyuichiSports001S「 bespoke ピーコート 六義モデル 」
GoldenClassic
RyuichiSports
bespoke
Pea-Coat
no. 1
私家版
classic pea-coat
「キング ジョージコート」
六義モデル
クラシックワードローブのなかでも私が魅かれるのが、ツイードのハッキングジャケットやキャバルリーツイルで仕立てられたシューテイングジャケットなどの「スポーツ」クローズの数々である、
英国では乗馬や狩猟、クリケットやフライフィッシュイングなどというスポーツが紳士の修養であり、教養であるとされているから、スポーツクローズもその用途に応じて実に多岐にわたる、
今回新テーラリングチームを編成したとき、その大きなテーマのひとつとしてこの「スポーツクローズ」を取り上げ徹底的に研究したいと思っていた。
「RyuichiSports」では魅力に溢れ、そして実用に優れた「英国クラシックスポーツクローズ」をひとつづつ研究し、紹介していきたいと思っています。
今回はそのファーストリリース、「本物のピーコートとは?」である。
銀座東京
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「クラシックワードローブ」における「スポーツクローズ」には、
ハンテイングや乗馬、クリケットや釣りなどスポーツ用のカントりークローズを中心とした「主流派(メインストリーム)」と、
もうひとつ「軍服」を由来とするスポーツワードローブの「流れ」が在る、
これにはライブリー用の「グレイトコート」なんていう「シブイ」アイテムもあるが、
良く知られているものでは「ダッフルコート」やそして今回の「ピーコート」だろう、
「ピーコート」というのは実際に日々愛用してみるとわかるが非常に便利(気軽に羽織れる)でかつ趣深い「オーヴァーコート」である、
英国海軍の艦上用の軍服を出自とするクラシックなルックスと、腰丈のコートレングスというのがチェスターフィールドやカヴァードコートにはない「軽み」を感じさせてソコがカッコ良いんだと思う、
ちょうどジャケットとオーヴァーコートとの「ミッシングリンク」のようなもので、実際、タートルネックなどのニットだけを着こんで「ジャケットがわりに」装う場合も多い、
「ピーコート(Pea-Coat)」の由来は諸説あるが、
(「Pea」というのはオランダ語でラシャのコートを意味する pij jekker<ピーヤッケ>が語源だとか、云々あるがそれはwikiなどにも記されているだろうからここでは端折る、)
巷にはサープラスものからデザイナーものまで様々なデイテイール、素材、スタイリング(?)の「ピーコート」が溢れている、
しかし、最初に表明しておくと
私には気に入るものが見当たらない、
巷に「流通」するそれらはルックスにしても「考え方」にしてもどこか疑わしく本来の出自にふさわしい豊かで深みのある「永遠性」をもつクラシックだとは到底私には思えないのだ、
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さて、この「ピーコート」の出自でもある「軍服を由来としたスポーツクラシック」という系譜を研究していくと、
やはり革新者であり「着巧者(装いが上手くときに衣服を革新していく)」といえるかなりユニークな人物が英国軍人(とくに海軍)史上には沢山いたことが分かる、
こういうひとたちが、タウンスーツにおけるウインザー公同様、軍服を由来としたスポーツクラシックに新しいスタイリングや独自の工夫を齎(もたら)してきたのだ、
こういう革新者たちの軍服は勿論「bespoke」であったのは云うまでもない、
例えばそのひとりが「R.H.研究ノート」にその雄姿を載せた英国海軍のデーヴィット・ビーティ提督(1871-1936)だ、
(提督はかなりユニークな人物だったが、まごうことなき「英雄」でロンドンのトラフォルガー広場にもその彫像が飾られている、)
提督はいつも軍帽を洒脱に(思い切り)斜めにかぶり、
「8つボタン」を正式とする提督服を「いつも」6つボタンの「自分仕様」でお抱えのテーラーに「パーフェクト」に仕立てさせ、「誰が何と云おう」と構わずそれを生涯愛用した、
(私はこのヒトの提督服を敬意をもって「アドミラルブレザー」と名付け、アトリエの「ネイヴィーブレザー」のシグネチャースタイルのひとつにしている、)
デーヴィット・ビーティ提督は、シカゴの有名な大百貨店を所有する大富豪マーシャル・フィールドのひとり娘、エセル・ツリーと「ドラマチックな紆余曲折の末」結婚し、
エセルは提督が航海中エンジン故障を起こし査問委員会にかけられそうになるや「デーヴィットのためなら戦艦のひとつくらい海軍にプレゼントするわ」と豪語したことでも有名で、「第一次大戦以前の優雅な時代」を背景としているからそのエピソードの数々もスケール豊かで、世知辛い現代に住む我々にとっては心を癒してくれるようで実に愉しい、、、
そう、この「軍服を由来としたスポーツクラシック」という系譜で大切なのは「第一次大戦以前」というキーワードであった、
つまり、軍服(ミリタリー)を由来としたスポーツクラシックの本物は第一次大戦以前を出自とする、ということである、
このことは案外知られていない、「巷のピーコート」がなぜ胡散臭いかというとそれは第二次大戦以降のものしか知らないか、参考としていないせいだと思う、
軍服(ミリタリー)を由来としたスポーツクラシックの最もエレガントなスタイリング、デイテイールを誇るのは(第一次大戦以前の)ヴィクトリアン、エドワーデイアン、ベルエポック期、そして第一次大戦期のものである、
今回の「ピーコート」も、ジョージ5世が愛用した通称「キングジョージコート」を由来としている、
ジョージ5世は「海軍は男児にとって最高の教育の場」と考えていた父エドワード7世の方針により兄のアルバートが肺炎で亡くなり王位継承者として退役せざるを得なくなるまで優秀な海軍軍人として活躍していた、
「セイラーキング」と呼ばれるほどの航海好きでかつ射撃の名手でもあった、
この方はときに「熱中し出すと止まらない」偏執的なところがあるようで、印度旅行時には趣味の狩猟に熱中するあまり少なくとも虎21匹、雉1000羽以上を仕留めている、またヨーク公時代は切手蒐集に執心し国内外有数のコレクターとして名を馳せ、王族関係者を呆れさせた、
そういうジョージ5世であるから、
第一次大戦時にも艦上で愛用し続けた「キングジョージ コート」にもこのヒトらしい工夫が施されている、
何より特徴的なのは海図がすぐに取り出せるように胸元に斜めに切ったフラップポケットがつけられていたことで、
(コレを或るデザイナーはコピーしているが、それはデフォルメされ過ぎていてあまり感心しない、)
アトリエモデルでは極くクラシックに大きく切られたラペルに平行に古式なフラップポケットを配している、
そして勿論大切なのは正しい「プロポーション」だ、
英国だけでなくヨーロッパでは王族や貴族は必ず国を守る軍隊の上層部を努める仕組みになっていたから、
本物のピーコート(軍服の本来のシルエットも)は第一次大戦以前のベルエポックやエドワーデイアンの上流階級の衣服の優雅なシルエットをしている、
つまり、この時代のヨーロッパの王族たちが共通して愛用し「規範」としていた「クラスの装い」のプロポーションでこの「ピーコート」は仕立てられている、
仕立ては極く柔らかい第一次大戦以前の英国のソフトテーラリングで、
からだ全体を優しく包み込むようにフィットしていく、
肩パッドは省かれ、ベントも切らず立体的にカットされ仕立てられたピーコートは頑丈な素材にも関わらず、着用すると重さを感じさせない精密な仕立ての工夫が施されている、
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この「ピーコート」は、クラシックケープで試した仕立ての工夫をさらに発展させていて、新チームで研究を重ねてきたテーラリングが活かされています、先ずこの優しく動きやすい着心地に驚くと思います、
前述したように第一次大戦以前の英国のソフトテーラリングの匂いのするスタイリングでちょっとノスタルジックな表情であるところもとても気に入っています、
肩パッドはなく、しかし背中の肩甲骨全体から包み込むように丸い優美なラインを描き、
ラペルはこれが本物のクラシックなネイヴァルの衿の形です、思い切り良く大きく拡がり、深く切り込まれていて味わい深い表情だと思います、
ピーコートのポケットは「マフポケット」(マフっていうのは毛皮で出来た筒状の手を暖めるための女性のアクセサリーのことです)といって、モノを入れるためではなく、寒風吹きすさぶ船上にあって手を暖めることを第一義としています、だから本式のピーコートには腰にフラップポケットはつけません、
このピーコートのもうひとつの珍しいスポーツデイテイールが「セミラグラン袖」で、
動きやすさを考慮して袖が「3パーツ、3枚ハギ」(通常のものは2ピース、2枚ハギ)で仕立てられています、これは、ヨーロッパの古のハンテイングジャケットの仕様です、
袖先のカフも極めてクラシックな1900年往時の独特な仕様に仕立ててあります、
本物の「ピーコート」は30オンス以上の頑丈な素材で仕立てられるべきだといわれています、
今回はとくに珍しいいまは失い英国のコート地専門ミル、ムーアハウス&ブルックの1960年代のスポーツというヴィンテージ素材をつかっています、
このクラシックなスポーツ素材は800g以上あるかなりタフに高密度に織られたウール生地で、しかし糸は非常に良いものが選ばれていて、意外にしっとりとしていてしなやかです、
かつてはネイヴィーブレザーなんかもフラノやサージで仕立てるのではなく、この「スポーツ」で仕立てるのが通であると云われたものです、
この素材は「黒」なのですが不思議なことに光をうけると落ち着いた「ネイヴィー」に見えるんですね、不思議です、
「クラシック ケープ」と同じくこの「ピーコート」はテーラリングが傑作だと私は思っています、
構築の「仕方」とその結果による「装いとしての風合い」が本物のクラシックになっていると思います、
或る意味では「紳士服のクラシック」に思い切りよく原点回帰させてると云えるかもしれません、
頑丈な素材なのに着ると全く重さを感じず、むしろ凄く心地良く動きやすい、
そして何より、スポーツでありながら微かにAラインを描きベントレスのこのプロポーションがかつての優雅な時代のエレガンスを偲ばせて味わい深いと思います
極めて正統的にクラシックな「ピーコート」です、
アトリエ シグネチャーのビスポーク仕立て、
新テーラリングチームによるクラシックテーラリングです、
(採寸のうえ丁寧な仮縫いを行います、)
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