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Mirai023S「 英国の昔 Classic3Ply 」
GoldenClassic
10Years after
みらい
no. 23
bespoke
ClassicEnglishSuits
「Classic3Ply worsted」
生涯の一着
10周年に向けて「みらい」にアトリエの工芸の粋を尽くした傑作をひとつづつ残そうと思っています。
「ウースッテド」という織物は英国のノーフォーク地方の村の名前からつけられたそうだ。
ウーステッド村はノースウォルシャムやアサイシャムと同じく12世紀以来織物産業の中心地であった。
それはこの地がとくべつ肥沃な土壌に恵まれ、牧畜が盛んで「English Leiceste」「 Teeswater」「Romney Marsh 」という「英国在来種」の極めて優良な羊を育ててきたことが大きく起因している。
そしてこういうことが英国の優れた織物は1970年代以前にある、と私が断言する理由のひとつである。
つまり、「メリノウール」や「タスマニアンウール」などのオーストラリアンウール及び大手紡績流通に市場を占拠される以前は、
「英国の織物」は「英国で育てた羊の毛」から織られていたということである。考えてみれば当たり前のことだ。
研究ノートで「昔のビエラ」について述べたように、織物産業の本家、英国こそ牧羊と紡績、織物は同じ場所にあり、原毛から染め織りまで一貫して行われてきた。良い羊がいるところに良い糸づくりがいて、良い織物屋がいた、これが英国が世界の織物産業の頂点に君臨していた理由なのである。
この「Classic3Ply」の貴重さ、「違い」を理解してもらうためにはここを知ってもらわなければいけない。
「英国の昔にあった頑丈でかつしなやかな理想のファーストスーツにふさわしいウーステッド」の背景が現代の織物工場に業者から「ブレンドされた糸」がトラックで運び込まれるというような風景ではないことは誰しも想像できる。
英国人と同じほど英国に根づいて育ってきた羊がメェー、メェーと鳴き、羊飼いの見習いの少年が野原に遊び、手作業に近いコーミング(羊毛の細さを揃える)が牧羊場の近くの紡績場でおこなわれ、水車が回り、織機の音が漏れ響いていた「英国の昔の村」でこの「Classic3Ply」は生まれたのだ。
「愉しいみらい」を創造していきましょう、
銀座東京
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私がまだ10代の頃、英国では「生涯6着のスーツがあれば足りる。」と云われていた。
どこに根拠があるのか、はたして本当に6着で足りるのか、或いは5着でも良いのかはともかく、
重要なのは「生涯」というところにある。是非ここに「アンダーライン」を引いておいて欲しい。
英国人は一度仕立てたスーツは「生涯着る」ことを当たり前としている。
いまでこそ我が国においても「bespoke」という生活スタイルが少しは知られるようになってきたが、数年前の日本の男は「生涯愛用し続ける」或いは「自分のスタイルを創造する」という観点からワードローブを揃えることはなかった。
日本とヨーロッパの「装い」の違いはそこにある。
そう考えて、「これから生涯愛用し続ける」一着目のスーツの姿を想像すれば、本来の英国気質=クラシックというものが理解できよう。
私が「最初のまっとうなスーツ」を注文したのはイートンのデンマン&ゴダードだった。1972年のたしか6月ごろ。
テーラーには父親と学校の先輩からすでに連絡がいっており、「好きなスーツを注文しに行った」というよりはなんだか「儀式」のようでもあった。
挨拶をし、紅茶が出てきて「学校はどうですか?」てな話があり、それではという感じでマスターテーラーのお爺さんは3着ほどの反物を目の前に広げた。
それはどれもいかにも頑丈そうで、遠目ではぼやけて地色にとけこんでしまいそうなピンストライプとかホップサックをもっともっと頑丈にしたごりごりの生地とか、どれもグレイや紺ではあるのだがよく見ると微細に色がまじっていたり組織がこまかくて、はっきりとは何色といえない生地であった。
今考えてみればそれが、昔の英国の「スーツの色」だった。
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「生涯を6着のスーツで過ごす。」ということは20歳ぐらいで仕立てて、サイズを直しながら70歳ぐらいまでは着るとすると約「半世紀」を共に過ごすということになる。
単純計算すれば、一着のスーツはその「半世紀」の6分の一の日数分着用するということになる。
実際にはその6着のうちタウンスーツが3着(他はカントリー「ツイード」スーツと「スポーツ」用スーツが一着づつ、そしてデイナースーツ一着)となるとかなりの負担がのしかかる。
そんなに大丈夫かと問われれば、ちゃんとメンテナンスすれば充分、耐えられると私は思う。
そして「耐えられる」ということにはふたつの意味がある。
ひとつはそれだけの「生地の質」、「仕立ての質」をもっていること。「質」というのはただ頑丈だということだけではない。
もうひとつは、いつ着ても、いつ「見られても」新鮮な輝きを保ち、むしろ年を経るにしたがって味わい深い魅力を見せる「スタイル」であること。これが大切だ。
そういう「生涯、愛用する、実用に耐える」スーツの生地として昔気質のテーラーが好んだのが頑丈な3〜4plyのウーステッドである。
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1960年代〜1970年代に織られたこの「ウッドハウス」の「3ply」ウーステッドの生地端には誇らかに「星」がふたつ刻まれている。
「星」というのはあくまで「自社比較」であるからやみくもにありがたがることはないが、(現在のイタリア製の生地は質に関係なくほとんどすべてに「5つ星」をつけている。)
この全盛期の「Classic3ply」はその「星」ふたつになるほど納得する特異な「質」を持っている。
「糸」が物凄く良いのである。
文字通りギュ〜とつかんでも手を放せば皺ひとつ残さず復元する。
それもゴムのような復元性だ。これほどのものは珍しい。この復元性はこの「Classic3ply」特有のものだといえるだろう。
しかも特筆すべきは、そのゴムのような復元性にも関わらず、もの凄く「しっとりとなめらかな手触り」なのだ。
これは素晴らしい。触ると驚くと思う。
余程、自社で育てた全盛期の英国種の羊の糸のなかでも「これぞ」という糸で織り上げたのではないだろうか。
仕立てあがれば3plyとは思えないカシミアのような優雅なドレープを見せることだろう。
我々の知っているごつごつと固い3plyとはまったくもって違う。